建築物などの有形固定資産の購入に伴い、将来的に解体や修繕などを行わなければいけない義務が生じた場合に適用できるのが資産除去債務です。
通常、取得した資産を処分する際には、多かれ少なかれ費用が発生します。
しかし、その全てが債務計上の対象となるわけではなく、法令や契約によって除去が求められる「法律上の義務」及びそれに準ずるもののみです。
今回は、資産除去債務の仕組みや会計基準、仕訳の計算方法などについてご紹介します。
目次
資産除去債務の概要と導入の背景
資産除去債務とは、有形固定資産を法令上の義務によって将来的に除去する必要がある場合、その資産を購入した時点で撤去費用も負債として計上するというものです。
対象となるのは有形固定資産であり、解体や修繕費用、土壌汚染、アスベスト除去費用などといった場合に適応されます。
オフィスや工場、倉庫など、建築物はもちろん、土地や駐車場、車両、電子機器類なども有形固定資産に該当します。
資産除去債務は賃貸不動産で考えると分かりやすいです。
賃貸物件を契約する際には、退去する際の原状回復に関する内容が契約書に必ず記載されているはずです。
原状回復は、契約が終了して退去しなければいけない際に、本来あるべき状態に戻して貸主に返すという義務があり、万が一修繕が必要な場合には敷金から差し引かれます。
賃貸借契約で定められた使用方法の範囲で生活を送っていれば、経年劣化によって壁や床などの部分が汚れたり、色褪せたりすることはあります。
原状回復はそれら全てを負担するのではなく、入居者の故意や過失によって破損した場合にのみ適用される制度です。
このような原状回復費も資産除去債務に含まれています。
資産除去債務が日本でも導入された背景には、国際会計基準(IFRS)への合意があります。
日本の会計基準で適用されるようになったのは2010年4月1日以降であり、それ以前は負債として計上は行われていませんでした。
他にも、日本が細則主義、収益・費用アプローチ、取得原価評価を会計基準としていることに対し、IFRSは原則主義、資産・負債アプローチ、公正価値評を会計基準にしているなどの相違点がありました。
会計基準はどうなっている?
これまで日本では、国際的な会計基準で見られるような会計処理は行われていませんでした。
しかし、企業会計基準委員会では、有形固定資産の除去に関する将来の負担を財務諸表に反映させることで投資情報として活用できるなどの指摘を受け、国際的な会計基準に対応するように検討してきました。
これを経て資産除去債務の会計基準は、有形固定資産の取得や建設、開発など通常の使用で生じるもの、除去に関連して法律や契約で要求される法律上の義務や準ずるもの、売却や廃棄、リサイクルなどの資産の除去に該当すること、と定義されています。
通常の使用とは、有形固定資産を目的のために正常に稼働させることです。
また、法律上の義務に準ずるものには、除去する義務や除去時に発生する有害物質を法律の要求によって特別な方法で処分するといった場合があります。
ただし、企業の自発的な計画で行われる場合は、法律上の義務に準ずるものには該当しないとされています。
会計基準や適用指針において、法令や法律上は特に規定されていないため、企業が保有している有形固定資産の処分に関して、法令や契約上でどのような義務が要求されるのか事前に確認しておかなければいけません。
【事例あり】仕訳と計算方法
資産除去債務の計上が必要になった場合、どのようにして会計処理を行えば良いのでしょうか?
資産除去債務は2010年に新たな会計基準が導入されたことで、実際にどのように計算して良いか分からない人も多いはずです。
ここからは、資産除去債務の具体的な仕訳や計算方法についてご紹介します。
固定資産購入における仕訳
資産除去債務は「固定資産購入費÷(割引率)5=現在価値」という計算式で求めることができます。
所持している固定資産を貸借対照表に計上するタイミングで資産除去債務も計上します。
決算時の仕訳
現在価値で計算するため、決算時に現在価値が反映されるようにする必要があります。
減価償却費の計算は、「固定資産購入費÷耐用年数」となっており、調整額の計算は「資産除去債務費×割引率」の計算式で求められます。
2年目の決算時の仕訳
2年目の決算を迎えた場合、定額法であるため減価償却費は一定です。
利息費用の計算は「(資産除去債務費+調整額)×割引率」の計算式で求められます。
その後も同じように計算していけば調整額がどれくらいなのか分かります。
税務上の取り扱いについて
資産除去債務を適用する際には、税効果に注意しなければいけません。
履行時期及び資産除去債務履行時の将来キャッシュ・フローの見積もり、現在価値に割引計算を行うため、見積りの要素が介入します。
現在、税務上の取り扱いについては公表されていませんが、将来発生する可能性があると考えられる除去費用は計上することから会計上は費用であっても、税法上では費用と認められない可能性が高いです。
また、損金になるかどうかは法人税の金額に関わってくるため、会計処理では税効果を考える必要があるのです。
万が一、費用として認められない場合は固定資産取得時に加算された金額の減価償却費について、申告調整をしなければいけません。
現時点では公表されていないため、今後の税務の動向を確認しながら行いましょう。
まとめ
今回は、資産除去債務の詳細や仕訳・計算方法についてご紹介しました。
取得した有形固定資産が将来、解体や修繕をする可能性があると考えられる場合、あらかじめ撤去にかかる費用を負債として計上しておく必要があります。
取得時はもちろん、建設や開発などの段階でも発生します。
また、国際的な会計基準が導入されてから10年ほどしか経過しておらず、比較的新しい制度です。
また実務上で計上する場合、将来の撤去費用や見積り、適切な割引価格の設定など、資産除去債務を扱う際には複雑な要素も少なからずあるため、顧問税理士や会計士に相談しながら話を進めるのがおすすめです。