使用貸借契約とは?トラブルの事例などを詳しく解説!

使用貸借契約

賃貸物件などを借りる際には、賃貸借契約を結びます。
また、これと似た言葉で使用貸借契約というものもあり、どのようなケースが該当するのか、どんな時に契約をするのかわからない方もいるでしょう。
この記事では、使用貸借契約がどのようなものか、賃貸借契約との違いや締結されるケース、使用貸借契約におけるトラブルなどを含めてご紹介します。

そもそも使用貸借契約とは?

使用貸借契約

使用貸借契約という言葉を知っていますか?
聞きなれない言葉なので、詳しい意味を知らない方もいるでしょう。
使用貸借契約とは、無料で使わせてもらっている、借りているという場合に該当します。

例えば、アパートやマンションといった物件を借りる際には、毎月賃料を支払うため賃貸借になります。
一方の使用貸借となるのは、友人から無料で借りる際に使用する言葉です。
これは部屋に限らず、無料で傘を借りた、自転車を借りた、バイクを使わせてもらったなどが使用貸借です。
当事者間の信頼関係が前提となるケースが多いため、基本的に契約書などを作ることもありません。
口約束で日常的に行われているため、経験がある方も多いのではないでしょうか。
しかし、口約束であっても契約であることには変わりがありません。
もちろん返済義務も生じますが、食べ物やお金のように「使って手元から無くなってしまい、全く同じものを返すことができない」場合は消費賃借になります。

そこで、使用賃借と賃貸借の違いを簡単にまとめてみました。

cc使用賃借賃貸借
契約成立当事者の合意で成立当事者の合意で成立するが、書面が必要なケースが多い
借主の権利建物の使用収益建物の使用収益
借主の義務目的となるものの返還賃料の支払い、目的となるものの返還
有償性無償有償
借地借家法適用外適用
対抗要件適用外適用
当事者の死亡による契約の変更貸主の死亡:契約継続 借主の死亡:契約終了貸主の死亡:契約継続 借主の死亡:契約継続

退去請求方法が違うことも把握しておこう

使用貸借契約

一般的に不動産などを貸し付ける契約を賃貸借契約と言いますが、無償で貸し付ける契約を使用貸借契約と言います。
使用貸借契約の場合、借地借家法が適用されません。
また、使用貸借契約に関して貸主は借主に対していつでも契約を解除して返還請求をすることができます。
ここでは、使用貸借契約においての退去請求方法の違いを解説します。

賃貸借と使用貸借の法的な違いについて

上記でも説明したように、賃貸借と使用貸借の違いは賃料が発生するかどうかという点です。
とてもシンプルな違いかもしれませんが、他にも法律上の違いが多く、知らないままでは損をする可能性が高いです。
特に不動産の場合、使用貸借には対抗要件がないものの、借主には不利な部分があり、税金の扱いが変わってくる場合もあります。

特に不動産においては、親子や近しい親戚であっても賃貸借にするか使用貸借にするかを含めて総合的に判断した方が良いでしょう。

居住権について

使用貸借は、無償でものを貸している状態です。
不動産の使用貸借の場合、借地借家法の適用を受けることなく、借主の権利においては賃貸借に比べて弱くなるとされています。
その理由は、使用貸借ではきちんとした書類での契約がなく、その期間なども決まっていないという曖昧さがあるからです。

使用貸借に関しての法律上の決まりでは、民法597条の「期間満了により契約は終了する」とあります。
事前に賃借期間を決めている場合は、期間満了によって契約を終了させて退去請求ができますが、決めていない場合は状況によって対応が異なります。

使用賃借となっている物件を手放したい場合

自分自身の物件を使用貸借としている場合、借家人が既に住んで生活しているものの、今後売却を検討していることを伝えるのは抵抗があるでしょう。
すんなり退去交渉で納得してくれれば問題ありませんが、使用貸借の物件から移りたくないと考える方も多いはずです。
このようなケースでは、借地借家法が適用されません。
そして、所有者が変わった場合、借家人の対抗力は使用賃借では認められていないため、新しい所有者からの退去要請に対抗するのは困難です。
売買契約前に、借家人と退去について話し合い、状況によっては使用賃借から賃貸借への変更を提案するなどを検討しましょう。
所有者が移転後に退去交渉が難しくなった場合、新しい所有者から契約不適合によって契約解除を訴えられる可能性もないとは言い切れません。
使用賃借となる物件を手放す前に、このような状況からの変更などの提案や交渉はきちんと行いましょう。

使用賃借で借家人が亡くなった場合

使用賃借では、借家人の死亡によって契約が終了します。
これは、民法597条3項で定められている内容です。
しかし、死亡した借家人の家族が夫婦や親子の場合は、民法通りにならない場合もあります。

本来、貸主側とすれば民法通りに退去請求をしなければならず、そのまま放置しておくと暗黙の承諾とみなされて、借家権の相続が認められるケースもあるのです。
基本的には、借主死亡の場合でも期間満了に伴って契約が終了します。
目的や期間を決めた契約なのか、定めのない契約なのかなどで貸主の選択肢が変わりますが、目的や期間が決まった使用賃借契約なら期間満了で終了できるのです。
目的や期間を決めていない契約であっても、貸主からの契約終了はいつでも可能となっています。
これは、借主が死亡した場合でも同じなので、貸主側からの解除を申し入れることはできるのです。
使用賃借の目的はあるものの期間が決められていない場合、目的を果たすために必要な期間が経過した場合は解除できるため、借主が死亡した場合でも同じ解釈ができます。
もし、同居人が借家権を相続したと主張した場合でも、期間や目的の達成で契約解除は可能です。
目的や期間が明記されていなくても、いつでも解除できるという定めは有効ということです。
ただし、使用賃借で借家権を認めた裁判事例もあるため、例外が存在することを覚えておきましょう。

相続後、使用借家人の退去を進めたい

今まで賃貸物件を所有していたオーナーに代わって、新たに物件を取得した新オーナーが、前オーナーが許可していた使用賃借の借家人を退去させたいと考えるケースもあります。
このような場合、新たなオーナーが退去請求できるかと悩むかもしれません。
使用賃借は、借家人の死亡によって契約終了となる決まりはあるものの、貸主の変更や死亡によって契約は終了する定めはありません。

賃貸物件を相続した貸主は、その地位を承継していることから借主は引き続き使用賃貸契約に基づいて使用ができます。

使用賃借の効力は弱いのか?

使用貸借契約

使用賃借は無償で不動産を借りている場合、借地権のような権利を取ることができず、借主は立場的に弱いことがわかります。
ここでは、使用賃借契約を貸主から解除するケースについて解説します。

貸主から解除できるケースについて

貸主側から契約を解除できるのは、以下の通りです。

契約解除の要件内容
存続期間満了事前に期間が決まっていた場合、期間満了で契約を終了できる
存続期間や目的を定めていない場合期間および目的を定めていない場合、貸主側からいつでも契約解除が可能
使用、収益の終了の場合期間を設けておらず、使用賃借の目的を決めていた場合、目的に沿って使用、収益を終えると契約も終了する
使用および収益に足りる期間の経過の場合期間を設けていないものの、使用や収益に足りる期間の経過により契約は終了できる

このように、両者から使用賃借契約解除が可能なものの、制限なく解除通告を受けると困ることもあります。
賃借契約の場合は、家賃滞納、物件の又貸し、契約違反など正当な事由がない以上、貸主側から解除できません。

原状回復義務が明文化

今まで、使用賃借契約において原状回復に関する内容は特に明文化されていませんでした。
しかし、2020年4月施行の改正民法で、使用賃借における原状回復義務が新たに含まれることになりました。

内容は、借主が借用物を受け取った後でこれに生じた損傷があった場合、使用賃借が終了した際に、その損傷を原状に復する義務を負うこと、ただしその損傷が借主の責めに帰することができない事由によるものであるときはこの限りでないという内容です。
この内容に伴って、借主が受け取った後に何かしらの損傷があれば、原状回復をして貸主側へ返還しなければなりません。
借主に落ち度や責められるような理由がない場合は対象外ですが、そうでない以上原状回復が必須となります。
賃貸物件と同様の内容である通常の使用や損耗、経年劣化などは特に含まれていないため、借主と貸主の話し合いで負担すべき範囲が変わる可能性があります。
また、契約内容もそれぞれの解釈によって多少の違いがあるでしょう。
このようなトラブルを防ぐためにも、使用賃借契約書の存在が大きく関係してくるでしょう。

対抗要件について

対抗要件は、当事者の間で成立した法律上の権利関係で第三者に対して主張できる内容です。
基本的に使用賃借において、第三者に対しての対抗要件はありません。
これは、借りていたものが貸主から第三者に譲渡されたとしても、借主は地位を主張して明け渡しを拒否することができないということです。
貸主の善意で借主に渡していた場合でも、第三者から明け渡すように言われてしまえば、そこに残ることができる権利を主張できません。
この内容からも、使用賃借で一定の権利を主張したい場合は契約書の存在が関係してくるでしょう。

使用貸借契約が締結されるのはどんな時?

使用貸借契約

ここまで、使用賃借契約の内容について解説してきました。
そこで、気になるのが使用賃借契約はどのようなケースで多いのかという点です。
ここでは、使用貸借契約が締結されるケースについてご紹介します。

親子間、友人間での例

親子間では、使用賃借契約が締結される例として車の貸し借りなどがあります。
親が所有している車を子どもが借りているのも使用賃借契約です。
子どもは無償で親から借りて、使用終了後に貸主となる親に変換します。
このようなケースは親に限らず、友人間でも起こっています。

親の土地に家を建てた場合

もう一つよくあるのが、親の所有している土地に子どもが家を建てるケースです。
土地の名義は親のままで、権利金や土地代を支払わずに子どもが借りていれば使用賃借に該当します。

使用賃借の状態であれば、相続税、贈与税なども発生しません。
ただし、子どもが親に地代を支払ったケースでは、親から子どもに借地県の権利金に相当する金額の贈与があったと判断されます。
この場合は、贈与税の対象になってしまうため、地代だけ支払うのではなく、使用賃借のままの方が税金の対象にならないでしょう。
固定資産税の支払いに関しては、使用賃借の範囲になるため、贈与税の対象ではありません。
子どもから多少でも支払いたいという気持ちがあれば、地代よりも固定資産税の方が良いでしょう。
親が亡くなったことをきっかけに子どもへ相続する際には、相続税の対象になることを覚えておきましょう。
このようなケースでは、土地は賃宅地ではなく、自用地として評価を受けます。
使用賃借となっていた土地では、更地扱いの評価になるので評価額が高くなってしまうので注意しましょう。

経営者と会社との場合

経営者と会社との場合でも、親子間の使用賃借と似た部分が多いです。
この場合、経営者名義の土地に会社名義の建物を建てた場合が該当します。
個人名義の土地に法人が建物を建設した場合は権利金を授与しますが、これが同族法人の場合は権利金が生じないケースが多いです。
このような場合、使用賃借に該当するということです。
ただし、法人は営利目的の組織であり、無償で借地権を使う考えはありません。
そのため、借地権認定課税というものが発生すると、借地権の償却ができなくなり、法人側でも経費に計上できないということです。

使用貸借契約は契約書がなくても問題ない

使用貸借契約

使用賃借契約に関しては、不動産会社などが間に入るような契約ではないため、契約書は必須ではありません。
しかし、親族間であっても気がつかないうちに使用賃借契約の要件を満たしてしまう行為が存在します。
親子間など近しい間柄で行われることがほとんどであるため、使用賃借に強い権利意識が認められなくても、トラブル回避のためには使用賃借契約書を残しておいた方が良いでしょう。
口頭だけの契約も可能ですが、後から「言った、言っていない」などのトラブルが起こる可能性も否定できません。
事前に目的、存続期間、特約、トラブル時のことについて残しておけば、契約締結から時間が経過しても内容を確認して伝達できます。

特に親族間で不動産を使用貸借する場合、他の親族にも了承を得ておくと遺産相続などのトラブルを防げます。

契約書の作成にはひな形を使おう

使用貸借契約

使用貸借契約書を作成する場合は、貸主と借主の双方が使用貸借契約の内容について十分に理解できるような内容にすることが重要です。
作成の仕方が分からない方は、インターネット上から無料でダウンロードできる使用貸借契約書のひな形を使って作成することをおすすめします。

以下より、使用貸借契約書に最低限記載すべき内容をご紹介するので、参考にしてみてください。

使用貸借の対象となる建物の情報

まずは、使用貸借の対象となる建物の名称や所在地、家屋番号、構造、床面積などを記載します。
同一の敷地内に複数の物件がある場合、名称や所在地だけでは使用貸借の範囲が不明瞭になる可能性があります。
どの建物のどの部分が対象であるかが、明確に分かるように記載しましょう。

使用貸借の目的

使用貸借契約書に記載すべき項目として最も重要なのが、使用貸借の目的です。
中には目的を設定しないケースもありますが、通常は借主が個人使用したり事業などで利益を得たりする目的があって、その目的を達成するまでの期間、無料で借りるというケースがほとんどです。
仮に、貸主と借主の間で契約内容について争いになった場合、あらかじめ決められた期間内に限って貸借を継続させることに対して、客観的かつ合理的な理由が存在するかどうかが焦点となります。

そのため、独立した項目を設けて、どのような目的で使用するのかをできるだけ具体的に記載することが大切です。

使用貸借の期間

使用貸借契約では、借用物の返還時期や使用貸借の終了を巡って、当事者同士で争いになることが少なくありません。
例えば、借主は使用や収益の目的があって土地や建物を使用貸借しているが、その目的を達していない場合、貸主は借主に対して返還請求をすることができないのかといったものです。
民法ではこの件について、当事者が使用貸借の期間を定めた時は、その期間が満了することによって使用貸借を終了する、また使用貸借に期間を定めずに使用や収益の目的を定めた時は、借主がその目的を終えることによって使用貸借を終了すると定めています。

使用貸借契約を締結する上で、期間を明確に設定しておくことが非常に重要となるため、必ず書面で明記しておきましょう。

譲渡や転貸の制限

使用貸借契約において、借主はあくまでも土地や建物を貸主から借りているという立場です。
つまり、借主には他人からの借用物であるという自覚を持って使用し、期間満了時には借用物を貸主に返還する義務があるのです。

民法でも、借主は貸主の承諾なしで第三者に借用物の使用や収益をさせることはできないとされ、この規定に違反した場合、貸主は使用貸借契約を解除できると定められています。
無用なトラブルを避けるためにも、使用貸借契約書にて、譲渡や転貸の禁止を明記しておくことがおすすめです。

税金や公共料金の負担について

使用貸借契約にまつわるトラブルの中でも特に多いのが、税金や公共料金などの費用をどちらが負担するかについてです。
民法では借用物の費用負担に関して、「借主は借用物の通常の必要費を負担する」と定めており、通常の必要費としては借用物の現状を維持するための修繕費などが該当します。
しかし、過去の裁判例では、固定資産税や都市計画税も通常の必要費にあたるとの判決が出ています。
また、ガス、水道、電気代などの公共料金の支払いについても借主が負担するケースが多いようです。
使用貸借契約書を作成する際は、費用負担についてもしっかりと明記しておきましょう。

契約の解除にについて

使用貸借契約書の作成時には、どのような場合に契約を解除できるかについても明確に記載しておきましょう。
民法では、使用貸借の解除について次のように定めています。
1.貸主は、前条(597条)第2項に規定する場合において、同行の目的に従い借主が使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、契約の解除をすることができる。
2:当事者が使用貸借の期間並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも契約の解除をすることができる。
3:借主はいつでも解除をすることができる。
また、使用貸借契約書の作成に使用されるひな形の多くは、締結する契約内容に違反した場合に契約を解除できることが明記されています。
なお、契約解除を行う際は、契約期間や理由に関係なく、貸主が1ヶ月前までに事前通知を行うことが一般的です。

原状回復について

使用貸借契約が終了した後は、借主が土地や建物の原状回復を行ってから貸主に返還するよう明記します。
原状回復の範囲については、民法第599条を参考にしてください。

損害金を請求

最後に、使用貸借契約において損害が発生した場合の対応についても記載します。
民法では、損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限について、次のように定めています。

1:契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない。
2:前項の損害賠償の請求権については、貸主が返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
また、必要に応じて、明け渡しに遅延が発生した場合の損害金ついても明記しておくと良いでしょう。

使用貸借契約におけるトラブルについて

使用貸借契約

使用貸借契約を結ぶにあたって、契約書の作成は必須ではありませんが、契約書を作成しないことによって思わぬトラブルが発生するリスクもあります。
ここからは、使用貸借契約にまつわるトラブルとして、代表的な事例を3つご紹介していきます。

ケース1「20年以上無料で貸していた土地の返還を求めたら時効が成立していると言われた」

Aさんは、隣の家のBさんに自身が所有する土地を無料で貸し出し、Bさんはその土地を駐車場として利用していました。
それから20年以上が経過し、Aさんが亡くなり息子のCさんが土地の所有者になります。
その時にはBさんも既に死亡しており、娘のDさんが引き続きその土地を駐車場として利用していました。
Cさんは、息子夫婦と同居するにあたって駐車スペースが必要になったため、Dさんに土地の返還を求めました。
しかし、Dさんはその土地が借りているものだとは知らずに、「借りた土地でも時効が成立しているため返還には応じられない」と主張したのです。
土地の使用貸借はAさんとBさんの口約束で始まっているため、契約書は存在しません。
Cさんは、Dさんから土地を返してもらうことはできるのでしょうか?

結論から言えば、このケースでは時効は成立しないと考えられます。
使用貸借の取得時効は民法によって、占有開始時から自分のものであると過失なく信じていた場合は10年、自分のものであると誤認していたなどの場合は20年と設定されています。
つまり、借主が自分の土地だと信じて10年または20年使用すると、使用貸借の対象となっている土地は、借主のものになる可能性があります。
反対に、借りている土地であると自覚して使用していた場合は、何年経過しても取得時効は成立しません。
以上を踏まえると、Dさんが駐車場を自分の土地だと認識したのは、元の借主であるBさんが亡くなって遺産を相続した時のことなので、10年または20年も経過しておらず、取得時効は成立しないことになります。
そのため、Cさんから土地の返還を求められた場合、Dさんは原則応じる必要があります。

しかし、納得できないDさんは応じず、Cさんと争うこととなってしまいました。
使用貸借では賃料のやり取りがなく契約書の作成も必須ではないことから、契約があいまいになり、このようなトラブルに発展するケースが多く見られます。

ケース2「隣人から無料で借りた土地に建てた倉庫を売却したいと言ったら拒否された」

定年後に第二の人生をスタートさせたAさんは、畑づくりに使う肥料やコンテナを収納するための倉庫が欲しいと考えるようになりました。
Aさんの家の裏には、倉庫を建てるのにピッタリの空き地があったため、所有者である隣家のBさんに聞いたところ、快く土地の使用を承諾してくれました。
しかし、それから10年が経過した頃、Aさんは腰を痛めてしまい、畑を辞めざるを得なくなります。
農作業に使う道具をすべて処分しようと考えましたが、倉庫はどうすべきか悩んでいたところ、その話を聞いた近所のCさんが「農機具も含めて倉庫を買い取りたい」と申し出たのです。
Aさんがその旨をBさんに伝えたところ、「Cさんとはあまり親しくないから、うちの土地に出入りしてほしくない。倉庫は売らないでほしい。」と言われました。
Bさんの許可なくCさんに倉庫を売ることはできないのでしょうか?

結論として、Aさんは、Bさんの許可なく倉庫を売却することはできません。
なぜなら、倉庫を使用する権利は、土地を使用する権利とセットになっているからです。

倉庫を立てたのはAさんですが、土地の所有者はBさんなので、仮にCさんが倉庫を購入したとしても、Bさんの許可なくその土地に立ち入り、倉庫を使用することはできないのです。
従って、Bさんが承諾しない限り倉庫は売れません。
では、Aさんはどうしたら良いのかというと、Aさんが土地を倉庫ごとBさんに返還するのが、最も現実的な解決策と言えます。
通常、使用貸借契約の終了時には、借主が原状回復を行って貸主に返還しなければなりません。
つまり、Bさんから求められれば、Aさんは倉庫を取り壊すための費用を負担する必要があります。
しかし、倉庫が建った状態で土地を返還すれば、Bさんはその倉庫を自由に使うことができ、Aさんは原状回復費用を負担せずに済みます。
Bさんにどれくらいのメリットがあるかを説明した上で、交渉してみる価値はあるでしょう。

ケース3「隣人に無料で土地を貸していたが、購入したい人が現れたので返還を求めたのに応じてくれない」

東京で暮らしていたAさんは、一人暮らしの母が亡くなったことから田舎にある実家の土地と家を相続しました。
東京暮らしを続けたいAさんは、実家を売却したいと思いつつも、仕事が忙しく2年ほどそのまま放置していました。
するとある日、実家の近所に住んでいたBさんから「Aさんの実家の庭が荒れ放題で町内会でも問題になっているから一度見に来て欲しい」という電話が入りました。
Aさんが久しぶりに実家を訪れると、Bさんから聞いた通りの惨状となっていましたが、多忙なBさんには庭の手入れや管理を行う暇はありません。
途方に暮れるAさんを見かねたBさんから、「庭の手入れを自分がやる代わりに駐車スペースにうちの車を止めさせてくれないか」と言われ、Aさんはありがたくその提案を受け入れることにしました。
それから5年が経過した頃、実家の土地を買いたいという人が現れたため、Bさんに駐車スペースをできるだけ早く返還して欲しいと伝えたところ、「急にそんなことを言われても困る。お金は払っていないが代わりに5年間も庭を管理してきたではないか。」と言います。
Aさんは、Bさんから土地を返却してもらい売却することはできるのでしょうか?

このケースに対する解答としては、AさんはBさんに返還請求をすることは可能ですが、すぐに返してもらえるとは限りません。
期限を設定しない使用貸借では、「目的に従った使用及び収益をするに足りる期間が経過したか」がポイントになります。

Aさんは、Bさんに「駐車場として使用する」という目的で土地を貸していましたが、5年という期間でこの目的が十分に達成できたかについて裁判で争われるとAさんにとっては少し厄介でしょう。
また、これが使用貸借にあたるのかも争点の一つです。
確かに金銭のやり取りはありませんでしたが、Bさんは土地の使用料の代わりに庭の手入れや管理を行っていました。
もし、この作業が賃料に相当すると認められれば、使用貸借ではなく賃貸借であると判断される可能性もあります。
ただし、使用貸借と認められなかったとしても、土地を返還してもらえないとは限りません。
賃貸借契約で期間の定めがない時は、貸主の申し入れから1年経つと契約が終了すると定められています。
つまり、1年待てばAさんはBさんに正式に土地の明け渡しを請求できるのです。
このようなトラブルを回避するには、使用貸借について明記すると共に、返還時期を定めた契約書を取り交わしておくことが重要です。
また、使用貸借の見返りに何らかの作業を依頼すると、後々トラブルになりがちなので注意が必要です。

使用借用契約は、賃貸借契約と違って契約書の作成が義務ではありません。
しかし、親族や友人など、どんなに近しい間柄同士の使用貸借だとしても、契約書がないことによって様々なトラブルが発生する可能性があります。
余計な争いを生まないためにも、使用貸借契約について正しい知識を身に付けた上で、あらかじめきちんと話し合いを行い、双方が納得できる契約書を作成しておくことをおすすめします。